朗読劇「SISTER(シスター)」 感想

 朗読劇「SISTER(シスター)」 10/26 19時公演

 

姉弟が繰り広げる会話から、生み出されるのは絶望なのか、希望なのか…。
実力派の二人が編み出す、あなたの日常。
二人で贈る、静かな会話劇、今はじまる。

 -博品館劇場 公演案内より-

 

一見普通の姉弟だが、実は姉は弟が生まれる前に既に死んでおり、弟が一人になった時だけその目の前に現れる幽霊(のような存在)。

弟は売れない詩人で、かつては舞台俳優を目指していたこともあったが今は地元のフリーペーパーの編集(姉曰く「誰でも出来る仕事」)をしながら生計を立てている。
 
 
弟は自分のことをあまり話さない。
 
姉は言う 「本当のことを話して」
 
弟は、死んだ後の世界には興味があるけど、自分が死ぬ瞬間については「こわいから」考えたくない。
 
姉曰く、死んだ後の気分は別に楽でもないし「すべてがどうでもいい感じ」
 
  
昨日の夜何食べた?から始まった二人の会話は少しずつ真実に近づいていきます。けど、見終わった今思えば常に「死」がすぐ側にあるような、時々スッと寒くなる不穏なワードが点々と置かれていたように思います。
 
実は弟は最近不眠症で精神科に通っていて、そこで睡眠薬を処方してもらっていた。元々は禁煙セラピーで通院していたのだが、担当医の先生に好意を持った弟は禁煙が成功した後もその病院に通う口実として不眠症の相談をした。
相手の先生も弟に好意を抱いており、お互い独り身だった二人が関係を深めるのに何の障害もなかったし、弟はやっと幸せになれると思った。
 
しかし弟はここで急激に不安に取り憑かれる。
 
自分は天涯孤独で親しい友人もいない
本当に幸せになどなれるのか
 
「今時間を止めてしまえば幸せの絶頂で終われる」
 
そして弟は睡眠薬をODして病院に救急搬送され、昏睡状態となっていた。
 
 
大切な事をいつも曖昧にして生きる弟に対して
「ちゃんと考えろ」
「自分の言葉で答えなさい」
と諭す姉に、口を尖らせながらもゆっくり、しかしちゃんと答える弟という姉弟の関係性がとても微笑ましかったです。
 
弟に見えている今現在の姉の外見(美人で背が高い)は、姉が言うには弟が見たいと思うものの投影という台詞からも、やはりこの姉の存在は弟が創り出した弟の中の理想というか、弟が心のバランスを取りながら生きていくのに必要だった「もう一人の自分」的なものだったのかなと思いました。
 
最後、生きたいのか死にたいのかわからないと迷う弟に姉が言った「でも、できれば朝には目を覚まして欲しいな」という台詞の優しさに弟と同じく私も泣きそうになったのですが、これも自己肯定とか本当は欲しかった他者からの肯定とか生への執着とかそういうものなのかなと。
  
個人的に印象に残った点として、中嶋さんと平野さんお二人が登場して椅子に座ってすぐ小道具の水差しからそれぞれコップに水を注ぐんですね。
姉役の中嶋さんは台詞の合間に自然な感じで水を飲んでいたのに対して、平野さんは一口も水に口を付けていなかったので、何か考えがあってそうしているのかなとは思って観ていたのですが、終盤の姉が弟に言った
「生きていればお腹も空く」
「最後に食事をしたのはいつ?」
「あなた水も飲んでないじゃない」
この台詞を聞いて、もしかしてずっと意識して飲んでなかった???と気づいて一瞬ぞわっとなりました。ここ他のキャストの方はどうだったのか知りたい…。
 
 
 落ち着いた空間で80分かけてゆっくりと濃いコーヒーを飲んでいたような、とても濃密な公演でした。このキャストの組合せが1回限りだったのも、個人的にはその分めちゃめちゃ集中して見れたのでよかったです。
でも展開すべてを知ったうえでもう一回だけ観たい…